悪魔と天使と快楽主義者

管理者:みやちん◆天使のザワメキ 悪魔のササヤキ

コウモト

S・コウモト・ウェラー



一章



「俺たちに名前はない」
“犬”と呼ばれるスティーブン・コウモト・ウェラーは“穴”“冬”“指”と共に、ヒビヤ・スラムを根城にしているギャング、ギンザ団のトラックを襲撃した。
どこからか食料を運んでいるギンザ団は、コウモト達の格好の標的だった。
コウモト達は抜群のコンビネーションで、あっという間に目的を果たす。


「単独行動の戦車
強奪したトラックを調べている最中、コウモトはキャタピラの音を耳にする。
見たこともない国連軍の新型戦車が単独で行動していた。
戦車が単独行動をすることなど滅多にない。コウモトは手に入れようかと考える。


「ヒビヤ・スラムでの戦闘」
ヒビヤ・スラムにあるアジトに戻ったコウモト達はすぐに武器の点検を始める。
国連軍と戦うためには何よりも大切な事。
しかしその最中、砲声が響きだし国連軍がスラムの住人に無差別攻撃をしているという情報が入る。
コウモト達は武器を手に取り飛び出した。


「震える指」
新型戦車の様子を観察していたコウモトは、運転しているのは軍人ではなく、兵器会社の社員か何かだと推察する。
戦車を奪おうと考えたが、スナイパーである“指”はアルコールが切れて指が震えてダメだと訴える。
コウモトは酒を渡すべきか考えるが……。


「スラムのミシェル
戦車を手に入れそこなったコウモトはヒビヤ・スラムにあるアジトに帰った。手に入れた食料の残りはスラムの広場に捨ててくる。
そこはミシェルがスラムの住人に食料を分け与える場所でもあった。
ミシェルが姿を現すが互いのことを気遣いながらも素直になれない二人に、仲間達は苦笑するばかりだった。


「飛来するA−10」
突然、砲撃の音が響く。ここを奪われては生きていけない人間がいる。コウモトたちは武器を抱えアジトを飛び出した。
そこで現れた攻撃ヘリをUG兵がいとも容易く撃墜するのを見る。
刺激されたコウモトはさらに現れたA−10にスティンガー・ミサイルを持って戦いを挑んだが……。


「UGからの誘い」
A−10を見事に撃墜したコウモト達。
引き上げようとしたがそこにUG兵の姿が見え、コウモト達を呼び止める。
UG兵はコウモト達の腕を褒め、準国民兵試験を受けることを勧める。
鼻で笑うコウモトだったが、一人“指”だけは真剣に考えていた。


「手に入れたものは」
国連軍の新型戦車に乗り込んだコウモトと“穴”はその戦車がBC兵器を撃ち出す、開発中の戦車だと知る。
XM9A−1“アニヒレーター”というのが名前だった。
アジトへ運ぶ途中奪い返しに来た歩兵と遭遇するが、アニヒレーターの撃ち出したガスはいとも容易に数十人を倒した。


マリアの微笑み」
アニヒレーターをアジトに隠したコウモトは一人クラブ・セレスへ向かった。
そこの女主人マリアは、コウモトの良き理解者だった。
新型戦車についての情報を確認したが、それは国連兵を相手に商売しているマリアの耳にも届いていなかった。



二章



「俺に似た小僧」
コウモト達は2台で行動する国連軍の戦車を発見し、攻撃をしようと考える。そこにはなぜかUG兵の姿もあったが、戦車への攻撃を行っていない。
躊躇わずにコウモト達は見事な連携で戦車を撃退する。爆風に飛ばされたUGの若い兵をコウモトは助け起こしてやるが、不思議とその若者が気になった。


「マリアの戦い」
コウモトは戦場で拾ったペイパー・バックを手にクラブ・セレスへ向かう。そこは反国連軍のマリアが経営する娼館だった。表向きは国連兵相手の商売をしているが、その実は文字通り身体を張った情報収集を行い、レジスタンス活動をしている。
若いみそらでそれをこなしているマリアをコウモトは尊敬していた。


「預かった男はUG兵」
マリアから負傷したUG兵をかくまってくれるように頼まれたコウモトは逡巡しながらも頷いた。
現れたのは中年のUG兵。負傷したヤエガシだった。
コウモトはなぜこんなことを引き受けてしまったかを考えながらも、ヤエガシをアジトに引き入れた。


「ヤエガシという兵士の実力」
ギンザ団の思わぬ抵抗にあったコウモトたちは怒りにまかせて本部を襲撃する。物は試しとヤエガシに手伝いを頼むと意外にもヤエガシは快諾する。
ギンザ団の本部に飛び込んだコウモトはヤエガシの、本物のUG兵の実力に圧倒され、そして自分でもわからない感情が湧いてくるのを感じていた。


「無頼の徒」
コウモト達を慕うスラムの少年トニーが、ギンザ団の本部ががら空きで今なら潰せると言ってくる。
コウモトは敵はギンザ団ではなく国連軍だと放っておくが、それからギンザ団はわが物顔でスラムの住人達を蹂躙し始めた。
怒りに燃えたコウモト達は、ありったけの銃弾をハマーに乗せギンザ団の本部を目指す。


奇妙な噂」
スラムに伝染病が流行っていると噂が流れていた。そしてコウモト達を慕うスラムの少年トニーがギンザ団の本部ががら空きだとの情報を持ってくる。
さらにギンザ団は伝染病の病原菌をばらまいているとの噂も。新型戦車の事も含め、何か気に入らないコウモトはギンザ団を潰そうとアジトを飛びだした。


「ギンザ団の本部へ」
ギンザ団本部へ乗り込んでいったコウモト、“指”“冬”“穴”の4人は、既に戦意を喪失したギンザ団たちをあっという間に蹴散らしていく。
通路を奥に進み、ギンザ団のボスと出くわしたが、ボスはそのまま部屋の中に逃げ込む。
コウモト達はドアを壊し、中になだれ込んでいった……。


「くだらない男」
ギンザ団のボスを部屋に追いつめたコウモト達だったが、ギンザ団のボスは抵抗らしい抵抗もせずにただひたすら命ごいをするような男だった。
殺すにも値しないと思ったコウモトは、唾を吐き、さっさと消えていなくなれと怒鳴る。
今までにない量の食料を手に入れながらも、コウモトは苛立っていた。


「マリアからの呼び出し」
ライバルかとも思ったギンザ団のボスはまるで胸くそが悪くなるような腰抜けだったと、コウモトは最高に苛立っていた。
そんな中、クラブ・セレスの女の子がコウモトを訪ねてくる。
マリアが会いたいと言っているから来て欲しいと。出向いたコウモトは、そこで国連軍に関するデータを受け取る。


「消えた仲間」
国連軍のヒビヤ・キャンプから兵が撤退していくとの情報をトニーから得た日、怪しいスーツ姿の男を見かける。
その後、偵察に出た“冬”が戻らず、心配になったコウモトはミシェルの家を訪れる。
顔色のさえないミシェルは“冬”を見かけていないと答えるが、コウモトはどこか様子がおかしいと考える。


「不穏な空気
伝染病あるいは国連軍のヒビヤ・キャンプから兵が撤退していくという噂が流れる中、怪しいスーツ姿の男を見かけ偵察に出た“冬”の姿が消えた。
コウモトは情報を求めてクラブ・セレスへ出向く。
そこでコウモトはマリアから国連軍の諜報部が動いている事実を知らされる。


「“冬”を救え」
明らかに“冬”は国連軍に拉致され、そしてそれはコウモト達が奪ったあのアニヒレーターを奪い返すための罠に違いなかった。
コウモト達は悩んだ末、罠とわかっていても“冬”を救うために国連軍ヒビヤ・キャンプに突入する。
そこには特殊部隊が銃を構えて、コウモト達を待ちかまえていた。


「コウモトの迷い」
“冬”は国連軍に拉致されている。それはコウモト達がアニヒレーターを奪ったために違いなかった。
罠とわかっていても国連軍ヒビヤ・キャンプに乗り込むのか?迷うコウモトを尻目に“穴”と“指”は出ていった。コウモトは悩みながらも、やはり助けに飛び出す。
しかし案の定特殊部隊が待ちかまえていた。



三章



「スワン・ソングへ」
コウモトはどうしてもヤエガシに何かを感じてしまう自分を不思議に感じていた。
エリートのUGとスラムのチンピラの自分。共通点など何もない。
コウモトはヤエガシを誘ってスワン・ソングというバーへ飲みに行くことにした。


「この街で生きていくために」
コウモトは酒の勢いを借りて、これまでのスラム暮らしの中で自分の内に溜まってきたものをヤエガシに向かって話し始めた。
戦いだけじゃだめだ。この街をどうにかしたい。
幸せに暮らすという事はどういうことか。
理想論を語るコウモト。ヤエガシは真剣にそれを聞いていた。


「燃え上がる」
マリアからの情報で国連軍とギンザ団の両方を叩きつぶす順調な毎日が続いていた。
コウモトはうまくいきすぎることに不安を抱き、それは的中する。
クラブ・セレスが爆破され火事になっているとトニーが知らせてきたのだ。
駆けつけたコウモトは、マリアがまだ中にいると聞き、火の中へと飛び込んだ。


「マリアの死」
国連軍とギンザ団の癒着ルート情報を掴んだマリアはそれをコウモトに流す。しかし、その結果なのか、クラブ・セレスは爆破され炎上し始める。
駆けつけたコウモトは奇跡的に火を消し止めるが、マリアは焼死体となって発見された。
必ず仇を取ると、コウモトは誓う。


「怒りの報酬」
コウモトは今まで感じたことのない怒りの渦の中にいた。
ギンザ団の本部である古い教会に乗り込んだコウモトたちはギンザ団を文字通り、建物すらその原形を残さないほどに壊滅させる。


「その思い出」
コウモトは怒りのままに仲間を引き連れギンザ団の本部を目指す。
そこは古い教会だった。かつて、そこが教会として存在していたころ、マリアが挙式を行おうとした教会だった。
コウモトはギンザ団を完膚なきまでに叩き潰し、教会をも崩壊させた。


「国連軍ヒビヤ・キャンプへ」
ギンザ団を壊滅させた翌日、コウモトは国連軍ヒビヤ・キャンプへ向かった。マリアを殺した彼らを許すわけにはいかなかった。
しかし、個人的な復讐に他の3人を頼るわけにはいかない。
単身ハマーで攻撃を仕掛けるコウモト。
その時、トラックに乗って“指”“冬”そして“穴”の3人がやってきた。


「その理由は」
ギンザ団から入手したデータで、コウモト達はギンザ団が国連軍から食料を得ていた事がわかった。何か後ろ暗いことをやっていたに違いない。コウモト達は食料保管庫であるハルミ倉庫襲撃を企てる。
しかし、どこからかそれを聞きつけたミシェルが必死の形相で止めに来た。
なぜか。コウモトは不審を抱く。


悪魔の兵器アニヒレーター」
コウモト達が倉庫で発見したのは、いつか見かけた新型戦車だった。状況からそれがBC兵器を撃ち出す戦車であり、コンピュータのデータからスラムの住人が実験台に使われている事もわかった。
どうしようもない怒りに燃えるコウモト達。
そこに国連軍が現れた。
アニヒレーターを奪い攻撃を仕掛ける。


「飢餓」
ヒビヤ・スラムの食料は不足しつつあった。コウモト達がギンザ団を潰し、国連軍のルートを断ち切ったために食料流通が悪くなっていたのだ。
どうすればいいのか。
どうしようもなくコウモトはただ荒れた。
だが、ワカマツ・コンサートを聴きながら、コウモトの心境に変化が生じていた。


「ヒビヤ・スラムのノーマ」
ヒビヤ・スラムに現れた見かけない女性。日本製のカメラを抱えたノーマを、コウモトは向こう側から来た人間だと直感する。
コウモトの仲間達と共に食事をとり酒を飲みかわし話し込んだノーマは、翌日、ワカマツコンサートの日に去っていく。
そしてコウモトの心境にも変化があった。


「取引」
“冬”を救おうとヒビヤ・キャンプに乗り込んだコウモトは逆に国連軍に捕らえられる。そしてそこでひとつの取引を提案される。
アニヒレーターを使って好き勝手に大暴れしていい。
もちろん相手がUGならベストだと。
そしてその実戦データを渡してくれれば食料と武器弾薬を与えるというものだった。


オートバイでの脱出」
取引を拒否したコウモトは、食事も与えられない独房で衰弱していった。
その時、砲撃が響き始めた。
それがUGのグレネードの音だと気づき、気力が蘇る。
砲撃で崩れた壁から脱出したコウモトは軍用オートバイを奪い、脱出を試みる。


大脱走
奪ったオートバイで見事なジャンプを決めて脱出するコウモト。
あまりの見事さに自分でも驚くが、置き去りにしてきた3人のことを考えるとそのまま走り去る気になれなかった。
だが、すぐ後ろには追っ手のジープが迫っていた。
コウモトは……。


「再び、仲間のもとへ」
脱出はしたものの、コウモトはアジトで意識を失う。
気がつくとそこにはミシェルが来ていて、傷の手当をしてくれていた。
あいつらを助けなきゃならない。
コウモトはミシェルの制止を振り切ってアニヒレーターに乗り込む。


「助けられた仲間」
脱出はしたがコウモトはアジトで意識を失い気がついたときは三日が過ぎていた。
ミシェルが手当てをしてくれていたのだ。
コウモトは急ぎアニヒレーターに乗り込んでヒビヤ・キャンプを目指す。
国連軍はガスで殲滅させたが“指”と“冬”は既に殺されていた。
かろうじて“穴”だけが生き残っていた。



四章



「新しい道」
ヤエガシが去っていき、コウモトは考え続けた。これからどうすればいいのか。
結論は出なかったが、とにかく国連軍の拠点を潰していた。しかし状況は変わらない。
どうしたらいいのか。
コウモト達は“畑”を作ることにした。
荒れ果てたスラムの土地を掘り起こし、畑を作り食料を生産しようと考えたのだ。


「そして命が」
UGがオールド・トウキョウで一斉蜂起するが、コウモトはここで畑を作るという生き方を選ぶ。
懸命な日々が続き、ヒビヤ・スラムはいつか街へと生まれ変わり始めた。
だが、コウモトは現れたギンザ団のボスに刺される。倒れ込んだコウモトの目に、待望の新芽が見えた。


「笑う仲間達」
国連軍に対し、勝ち目のない戦いに赴いたコウモト。
そして“指”“冬”“穴”も駆けつけた。
互いの愚かさをののしり合いながら、大笑いする4人。
コウモトは、スラムで得た仲間のきずなを確認し、胸を熱くして思う……。


「これからの日々」
ギンザ団は壊滅させ、そして国連軍に一泡吹かせたコウモトはこれでマリアに会いに行けると思った。
病室の中、身体中に包帯を巻かれ痛々しい姿のマリアがベッドに横たわっている。
コウモトはマリアに仇を取ったと告げ、マリアは微苦笑で応えた。


「向かうのは明日」
国連軍ヒビヤ・キャンプに大きな損害を与えたコウモトと“冬”“指”“穴”の4人。
まだ何かが終わったわけではない。しかしマリアの仇が討てたことにコウモトは笑みを浮かべる。
悪態をつくコウモトに、仲間が笑い声で応えた。
4人の声がカチドキ橋に響いていた。


「売られた仲間」
コウモト達がギンザ団を潰したことにより、皮肉なことに食物の流通が減り、ヒビヤ・スラムはさらにひどい状況へと流れた。
そんな中、コウモト達を慕っていたはずのトニーが、食料欲しさに“指”を国連軍に売り“指”は無残に殺された。
怒りをどこへ向けていいかわからずコウモトは荒れる。


「ミシェルの生き方」
何もかも嫌気が差し戦う気力も生きる意欲も失せたコウモト。そんなコウモトの前に、ミシェルが現れる。
スラムの住人達に食料を分け与え続けたミシェルが、クラブ・セレスで働く者のひとりとなって現れたのだ。生きていく決意を固め己で道を決めたミシェルにコウモトは優しく言葉をかけた。


「ひとつの終わり」
オールド・トウキョウでUGの一斉蜂起が始まる。
静観していたコウモトだったが、民間人までもがその騒ぎに乗じて強奪略奪の限りを尽くすのを見て、アニヒレーターを動かす。
エクスハーローガスがおびただしい数の死体を作り出すが、コウモト達には何の感情も湧かなかった。


「すべての終わり」
国連軍が迫ってきていた。対生物兵器のABCスーツに身を包んだ大勢の国連兵たちが静かに進攻してきたのだ。
コウモト達に迷いも悔いもなかった。
やるしかない。かなうはずがないが戦うしかない。それがコウモト達の結論だった。
3人は笑みさえ浮かべながら、煙漂う中に飛び込んでいった。


「ひとつの事実」
コウモトは、ミシェルが落としたスケッチブックを拾う。そこには驚愕の事実が書かれていた。ミシェルは大量の食料と引き換えに死にそうなスラムの住人を人体実験用にギンザ団を通して国連軍に引き渡していたのだ。
しかし、それによって救われる人間もいる。
ミシェルは罪の十字架を背負い続けていたのだ。


「そこに何が見えるのか」
コウモトは、事実を知り思い悩んでいた。
誰がミシェルの行為を責められると言うのだろう?コウモトはミシェルの家を訪れる。
寂しげにコウモトを見つめるミシェル。
コウモトは何も言えなかった。
そしてミシェルは拳銃を自らの額に向けた。


「すべての根源」
エクスハーローガスとアニヒレーター。
ミシェルをも巻き込んだ諸悪の根源はGI傘下のボリス製薬であることを、コウモトはマリアから聞く。
しかしそこは精鋭達で固められた、攻め込むにはあまりに危険な場所だった。
ミシェルの制止を振り切り、アニヒレーターを出すコウモト達。


「すべてを犠牲にしても」
ボリス製薬に乗り込んでいったコウモト達はまさに精鋭達の攻撃を受ける。
アニヒレーターを使い突破するが、仲間は次々に倒れていく。
その犠牲を無駄にはできない。コウモトはようやくガス製造プラントに辿り着く。
最後に残った“穴”も死んだ。爆薬をセットし、あとは起爆スイッチを……。


「命は捨てない」
ガス製造プラントに乗り込み爆薬を仕掛けたが、最後の最後で起爆スイッチを押せなかったコウモト。目が覚めた時、自分が手当てをされて生きている事に気づく。
屈辱に悔し涙を流すコウモト。なぜ皆と一緒に死ねなかったのか。
しかし、無意味な自殺はしないと考える。
糞には糞の生き方があると。


「スラムの天使
コウモトは信じられない話を聞かされる。実はミシェルは大量の食料と引き換えに死にそうなスラムの住人を人体実験用にギンザ団を通して国連軍に引き渡していたのだ。
それを知った“穴”はミシェルに拳銃を向けた。ミシェルのせいで仲間が死んだと。
そしてミシェルもまた、その手の銃を“穴”に向けた。


「二つの、死」
ミシェルの裏切りを知った“穴”はミシェルの銃弾を受け絶命する。
ミシェルもまた“穴”の撃った銃弾に瀕死の重傷を負う。
コウモトの腕に抱かれながら、裏切る気などなかったと告げ、コウモトが好きだったとの言葉を遺していき途絶えるミシェル。


「その腕の中で迎える死」
ミシェルの行為を許せず銃を向ける“穴”。
相撃ちになった銃弾は、ミシェルの命を即座に奪い、“穴”には少しの猶予を与えた。
コウモトの腕の中でミシェルを殺してしまったことを詫びる“穴”。
そして、ゆっくりとその命の灯が消えていった。


悲しき口笛
“冬”“指”“穴”そしてミシェル。皆死んでしまい、喪失感と己のふがいなさ、そして世界への失望感に悩まされるコウモト。しかし、それでも生きていかなければならない。コウモトは一人スラムを歩いていた。
夕暮れの中、見知らぬ少年に向かって、そして逝ってしまった人間に向けて、口笛を吹いていた。