悪魔と天使と快楽主義者

管理者:みやちん◆天使のザワメキ 悪魔のササヤキ

サカキ

サカキ・サトル



一章



「その世界へ」
サカキ・サトルは、森の中にいた。まったく経験したことのない異質なものを感じる森の中に。
なぜ自分がそこにいるのか、そこがいったいどこなのか、まるでわからないまま。
さらにあろうことか正体不明のヘリコプターに突然攻撃されたのだ。


「森の向こうへ」
身体が千切れた人間を見た。
そして逃げていた。本能のままにサカキ・サトルは逃げていた。
死にたくはない。ここから逃げなくてはならない。その思いだけが身体を動かしていたのだ。
そして、不意に森が途切れたとき、サカキ・サトルが見たものは。


「現れた男」
その男は、兵士だった。
軍服を着て、武器を持ち、目の前の敵を何の躊躇いもなく殺していく兵士だった。
その男の行為に恐怖を感じながらも、自分を救ってくれたのだとサカキ・サトルは確信していた。


「戦う男達」
彼らは紛れもなく軍隊の兵士だった。外国人の兵士。
彼らは確かにサカキ・サトルを敵と認識し、攻撃しようとしてきた。
なぜ、自分が殺されなければならないのか。
言い様のない恐怖に震えるサカキ・サトルの前に、別の兵士が現れた。
今度は、日本人の兵士が。


「南箱根の別荘」
サカキ・サトルは幼なじみの泉美に連れられ別荘に来ていた。
毎年、ここで絵を描いていた。
泉美の肖像画を。
しかしいつしか白いカンバスが、まるで何もかも吸い込んでしまう暗闇のように見えはじめたのだ。
……それが何なのかは、わからなかった。


「ナカジマ曹長と名乗る男」
サカキ・サトルは自分を助けた日本人兵士にここで国連軍と戦っていると聞かされた。
疑いようもなかった。実際に攻撃され、殺されそうになったのだから。
それは、文字通り信じがたいことだったが、日本人兵士が指した谷間には確かに外国人兵士たちがいた。


「手の中の銃」
攻撃され負傷したナカジマ曹長は代わりに外国人兵士を攻撃しろと言う。しかし撃てるはずがない。サカキ・サトルは心の中で叫んでいた。
この銃を撃てば、相手は死ぬ。人殺しをするということだ。そんな事ができるはずない。
たとえ命の恩人の言うことでもきけるはずがなかったのだ。


「今やるべき事」
ナカジマ曹長は自分をかばって負傷した。
撃つしかないと、思った。
初めての銃の重さを感じながらサカキ・サトルは悟った。
なんであろうと、命の恩人をこの場で見捨てるわけにはいかない。
自分はこの人に命を救われた。
今度は自分が助ける番だ。


「僕の撃った弾丸」
ナカジマを助けたい一心で撃った銃弾は敵兵を捉え、二人ほどを倒す。しかし同時にサカキ・サトルも肩に銃弾を受け倒れ込む。
激しくなる国連軍の攻撃に身を隠しながら、自分が銃で人間を撃ったという感覚を確かめていた。
確かに弾が当たり兵士が倒れるのは確認したが、しかし実感はなかった。


「あの日々へ」
ナカジマ曹長と別れ、捕らえられ、拷問にかけられたサカキ・サトルは苦しさの中で泉美を思い出していた。泉美との幸せな日々。
幼なじみの殻を脱ぎ捨てたいと考え、それを果たせずにいる自分。泉美の全てを未だにカンバスに写し取れない歯がゆさ。
サカキ・サトルは生への執着に身もだえしていた。


「なぜ、ここにいるのか」
迷わずにトラックに飛び乗ったサカキ・サトル。いくら考えてもわからなかった。
自分は確かに幼なじみの泉美と南箱根にいたはず。それが、ここは戦場になっている。
何なのか、いったい自分はどうしてしまったのか。そして、一緒にいたはずの泉美はどこへ行ってしまったのか。
答えは出てこなかった。


「辿り着いた場所」
答えの出ないまま、サカキ・サトルを乗せたトラックは止まった。見知らぬただ広い施設を見渡し、サカキ・サトルは迷っていた。
これからどうすればいいのか。
しかし、不意にサカキ・サトルの目の前に銃口が現れた。


「圧倒的な力の差」
無力だった。
兵士に追われ、施設の武器保管庫に逃げ込んだサカキ・サトルだったが、現れた一人の外国人兵士の前に、まるで赤子の手を捻るかのように扱われたのだ。
手にした拳銃などまるで無意味だった。


「撃たれるという感覚」
サカキ・サトルは思い切って武器庫の扉を開けた。が、同時に向こうからも引っ張られてつんのめるように廊下に転がる。
そこに男女の兵士がいた。
無意識のうちに銃を構えたが、男は動じる事もなくサカキ・サトルの足を撃ち抜く。
あまりの痛みに声も出せずにうずくまる。


ジャックと逃亡の機」
サカキ・サトルを捕まえた男はジャック・マクダネルと名乗り、ここの部隊の指揮官だと名乗った。
サカキ・サトルは思った。軍隊の基地があり、日本人と外国人が戦っているのか?
そしてそれは警備兵にこう囁かれた時に確信となった。
「後で助けに来ます……」


「脱出工作」
サカキ・サトルは基地の警備兵になりすましていた工作員の手によって独房から救出された。
“向現”という奇妙な薬を飲まされ、なぜだか体力の回復を感じたサカキ・サトルは工作員の指示で脱出工作を手伝うことになる。


「武器を選ぶということ」
工作員とともに、武器庫に戻ったサカキ・サトルは、わけもわからないままに使う武器を選べと言われる。
武器のことなど何もわからないサカキだったが脱出に必要であるのだから、それなりのものが必要だろうと考える。



二章



「違う国」
サカキ・サトルは確信しかけていた。
明らかに、ここは日本ではない。いや、正確に言うならば、自分が住んでいた日本ではないと。
あり得ないことが自分の身に降りかかっていると、強く認識していた。


超電導
連れてこられた検問所のロビー。テレビの中で一人の男が演説をしていた。超電導について。
その男は有名人らしいがもちろんサカキ・サトルはわからない。超電導という言葉自体は知っているが、それがいったい何になるのかわからない。
疑問だけがどんどん増えていく。


「そしてトンネルへ」
特別区の中心街は、普通の街となんら変わるところはなかった。
商店がありビルがあり人々が行き交う、サカキ・サトルの知る“普通”の街だった。
ただ、軍服を着た人間が異様に多いというだけの。
そして、サカキ・サトルはトンネルの入口へと足を踏み入れた。


「逃げ道はない」
工作員が爆破を始めた。
途端に騒がしくなる基地内の一角にサカキ・サトルは一人残された。
通路の向こうから大勢の人間の気配が近づいてきていた。このままだと戦闘になるのかもしれない。
確かに武器は持っているが、自分がこれで戦うなど想像もできなかった。


「決定的な誤解」
工作員は明らかに誤解していた。自分のことを潜入任務をこなす優秀なスパイとでも思っているのだ。
だから連れて逃げてくれている。
サカキ・サトルはそれに気づきながらも、今はその誤解に頼って一緒に逃げるしかないと思っていた。


「生き残る」
サカキ・サトルは自分に対して常に優しく笑みを絶やさない工作員に好意を抱いていた。
しかし彼は無表情で銃を撃ち爆発させ基地内の兵士を次々に殺していく。当たり前のように殺していく。
サカキ・サトルは実感していた。
ここは、そういう世界なのだ。生き残りたければ、相手を倒すしかない世界だと。


「飛び込んだ部屋」
ドアを壊し飛び込んだ部屋は何かの倉庫らしかった。
逃げ込んだのはいいが、サカキ・サトルに勝機はない。人を殺せるはずもないのだ。
暗がりに身を潜めるサカキ・サトルの前に、あの工作員が戻ってきた。


「選択の余地はない」
工作員の手引きでようやく基地の外に逃げ出し、救出を待つサカキ・サトルだったが、そこに追っ手が迫る。蹴散らさなければ生き残れない。
もはや選択の余地はなかった。撃たなければ殺されるのだ。
サカキ・サトルは銃を構えた……。


「迫り来る戦車
何とか基地の外へ出たサカキ・サトルと工作員だったが、後ろから戦車が迫る。
救助はまだ来ない。見知らぬミサイルのような武器を手渡されとまどうサカキ。
工作員は囮になって動くという。
自分が撃って戦車を破壊しなければそれまでなのだ。
サカキ・サトルは躊躇しながら構えた。


「湧き上がる、力」
工作員が負傷した。自分を助けようとして動けないほどの重傷を負ったのだ。サカキ・サトルは身体の奥から何かが湧き上がってくるのを感じていた。
死なせない。彼を助けて自分も生き延びる。
そう決意し、工作員を背中に戦場を駆け抜けるサカキ・サトルの耳にヘリコプターの音が聞こえてきた……。


「逃げ込んだ先の闇」
基地を飛び出し敷地内に出たが、進路を塞がれている。
工作員に、爆弾を仕掛ける間、ここの場所を確保してくれと頼まれたが攻め込まれて果たせず、やむなくドラム缶の陰に飛び込む。
しかし、そこに銃口があった。
ニヤリと笑う兵士の、顔が見えたのだ。



三章



「地下で出会った男」
エレベーターで地下に降りたサカキ・サトルは乗り込んだトロッコの中で一人の外国人と出会った。
オーストラリア特別大使オズワルド・コールマン。
気さくに話しかけるコールマンに、初めて安堵感を覚えた。日本に憧れ、日本を愛するコールマンにサカキ・サトルは好感を持つ。


「地下で出会った少女
地下を走るトロッコと呼ばれる車内で、サカキ・サトルは外国人の少女と話した。
まだ中学生ぐらいの彼女の名はケイト・マイヤー。アメリカから来た亡命者だと言う。
彼女は国家的規模の理由で命を狙われ、この国に亡命してきたというのだ。


「地下を走るトロッコ
トンネル入口からエレベーターで地下に降りたサカキ・サトルは、彼らが“トロッコ”と呼ぶ列車のようなものに乗り込んだ。
そこから地下司令部へと移動するらしい。
車内の窓からは見たこともないトンネル工事の様子がうかがえた。


「見知らぬ日本」
ロッコで移動し、地下を歩くサカキ・サトル。そこは表面上こそ自分のいた日本と変わらなかった。
軍人ばかりではない普通の人もいたのだ。
しかし、違っていた。人々の表情も立ち居振る舞いも何もかも。同じ日本人なのに、まったく違う日本人たちが、地下に住み、地上で戦っていたのだ。


「鬼神の強さ」
現れた戦闘ヘリは敵だった。観念しかけたその時、工作員が言っていた援軍が現れた。
たった一人で、何十人もの敵兵を目にも留まらぬスピードで倒していく日本人の兵士。
驚く間もなく、サカキ・サトルはその兵士達に連れられ、地下に潜っていった。
そこには、地下鉄のホームのような空間が拡がっていた。


「そしてまた独房へ」
サカキ・サトルを救出した工作員が死亡してしまった。サカキ・サトルはまたしても身柄を拘束され、独房へと入れられた。
度重なる絶望に打ちひしがれる。
しかし、その耳に何かが届いた。
騒ぎ。そして二人の男が独房になだれ込んできた。


「難民キャンプから」
工作員の証言で、サカキは民間人として難民キャンプへ移送された。そこは、明らかに混血とわかる人たちで溢れていた。
やがてサカキは迎えが来たと告げられ、隻眼の日本人兵士に連れられる。
地下のトンネルをトロッコで進み、待っていたマツザワと名乗る女性兵士と一緒に地下司令部という場所へ向かう。


「五分後の、日本」
下司令部でサカキ・サトルを待っていたのは48人委員会の長、ヤマグチ司令官。
ヤマグチはサカキに、ここは君の日本とは違う日本だとはっきりと告げた。
ここは地下2000mのトンネルに人々が暮らす別の“日本”なのだと。


「出会った女性」
疲れからか、眩暈をおこしたサカキ・サトルの前に現れたのは、幼なじみの泉美にそっくりな女性だった。
そのイシイ・ハルカ少尉はこの世界に適応するまで案内役を務めるという。
あまりにも泉美に似ているため動揺するサカキ・サトル。そして、もう二度と帰れないのではないかという思いが、渦巻いていた。



四章



「この国で過ごすために」
戻れるようになるまでここにいるしかない。
現実を受け入れたサカキ・サトルはイシイ少尉に案内され、居住局へ向かった。
住む場所を用意されるが、兵舎に空きがなく軍関係者の家に寝泊りすることになった。


隊長の名はヤエガシ・カツナリ」
家の主、ヤエガシ大尉は、自分を助けてくれた、あの驚くべき戦闘能力を持った「隊長」だった。
無口で武骨な軍人そのもののヤエガシ大尉。
そして見たことのない簡素で合理的な居住施設。躊躇いを感じながらも、疲れから泥のように眠るサカキ・サトルだった。


情報部長官タケウチ・セイジ」
48人委員会の一人で、この国の重要人物であるタケウチ大佐は物腰柔らかく、温和な人物だった。夫人の作る温かい料理と優しい雰囲気に、サカキ・サトルは一息ついていた。
しかし、タケウチ大佐は軍の入隊訓練を受けろと勧める。この国で暮らすならばそれが必要だと。


「軍人イシイ・ハルカ」
イシイ少尉に案内され訓練施設を見て回ることになったサカキ・サトル。
射撃訓練所では、イシイ少尉の見事な射撃も見学した。
泉美にそっくりな彼女の、軍人としての能力にどうしても違和感を感じ、そして泉美を思い出してしまう。


「この国の中枢」
イシイ少尉にどこか見学したいところはないかと訊かれ、この国の中枢を見てみたいと告げた。そこだけは無理かもしれないと眉をひそめられたが、なぜか特別に許可され、サカキ・サトルは司令部へと案内された。そこはまさにこの国の頭脳であり心臓部だった。
オペレーションルームはまるで映画のセットのようだった。


「軍隊の訓練とは」
ヤエガシ大尉は、何の理由もなくサカキ・サトルに入隊訓練を受けろと言った。
宿泊費代わりというならともかく何の理由もなく命令されるのは嫌だと突っぱねたが、結局受けることになる。
サカキ・サトルはヤエガシ大尉をある意味で信頼していた。いいかげんな人ではない、何か言えない事情があるのだと。


「天才タケウチ・ナルミ少尉」
入隊教練を受ける前にトレーニングが必要だとイシイ少尉に紹介されたタケウチ・ナルミ少尉は不可思議な人物だった。
その名を広く知られる天才スナイパーでありこの国ではエリート中のエリートである彼は恐れられてもいた。
しかしなぜかサカキ・サトルには優しく、もう一つの日本の話をよく聞きたがった。



五章



「入隊教練」
鬼教官と呼ばれるアダチ大尉の訓練は、熾烈を極めた。サカキ・サトルは座学に現れたヤマグチ総司令官に反発するような意見を述べるなど自分なりに訓練を消化していた。
そんな中でオカダ兄弟をはじめとする同じ班の若い兵士達との親交も深め、徐々にこの国の暮らしにも適応していった。


「ナイフ・コンバット
模擬戦用ラバーナイフを使った格闘術の訓練が始まった。アダチ大尉と模擬戦を行ったサカキ・サトルは見事アダチ大尉を一瞬だが倒した。が、気を抜いた次の瞬間には首筋にナイフをあてられていたのだ。
次に行われたアダチ大尉とナルミの模擬戦に天才というのはこういうものなのかと唸るサカキ・サトルだった。


「コールマンとの日々」
オーストラリア大使コールマンは、サカキ・サトルとタケウチ・ナルミを気に入り、毎日のように二人の前に顔を出していた。
陽気なコールマンに二人も心を開き、コールマンの古き良き日本の話に耳を傾けた。
そしていつか共に戦いたいと願うコールマンに年齢差を越えた友情すら感じていた。


「訓練の日々」
アダチ大尉のもと、厳しい訓練を続けるサカキ・サトル。ヤエガシ大尉からも、アドバイスを与えられる。
ヤエガシ大尉のまるで懇願するかのような忠告を胸に刻む。
そしてサカキ・サトルは、射撃訓練場にて狙撃訓練に挑む。


「狙撃訓練」
サカキ・サトルは狙撃訓練にて、1000m先の標的を一発で射ぬく。
アダチ大尉は風もない訓練場では当てて当然だと言いながらも、その能力を認め、そして警告する。
自分の能力を過信するな、スタンドプレイには決して走るな、と。


「絵を描いて」
久しぶりに会ったイシイ少尉は、サカキ・サトルに絵を描いてくれと言う。
泉美が描けなくなり、筆を置いてから久しいために、戸惑いを感じる。
そして、イシイ少尉は何かを察したのか、泉美の名を口にした。


生きる事は、選び続ける事」
南箱根に磁気の異常が観測され、サカキ・サトルはミズノ隊の調査に同行を許可された。
それは自分の日本に帰れるかもしれないという事だった。
しかし、直前にコールマン大使が暗殺され、その報復作戦がある事を知らされる。
サカキ・サトルは迷いながらも報復作戦への参加を希望した。


「願うという事は、力になる」
南箱根に磁気の異常が観測され、ミズノ少尉が率いる調査隊に同行を許可されたとイシイ少尉に告げられたサカキ・サトルは、帰れるかもしれないと期待に胸を震わせた。
しかしその当日の朝、コールマン大使が暗殺され、報復作戦があると知らされる。
迷いながらも、サカキ・サトルは帰ることを選んだ。


「出撃命令書」
訓練が終わり、望まないながらもサカキ・サトルはこの国の兵士として認められた。
そして待ち続けた南箱根の磁気異常が観測された事を告げられる。
しかし、南箱根に向かうはずだった日の朝、出撃命令が下される。
拒否はできる。だが、サカキ・サトルはそれに従う決意をした。



六章



「見えない涙が、溢れている」
橋の爆破作戦という初めての戦闘に出向いたサカキ・サトルは躊躇いながらも戦場の空気に馴染む自分を発見していた。
そんな中、敵兵に捕らえられた準国民兵が自分を犠牲にして国連兵を倒せと訴える場面に遭遇する。
銃を構えたサカキ・サトルを、ヤエガシ大尉が押しとどめ、自ら引鉄を引いた。


「決死の作戦」
野営中にサカキ・サトルはヤエガシ大尉と短い会話を交わす。その中で戦うことの厳しさと辛さを実感する。
翌日、橋の爆破作戦の渦中。国連軍との必死の攻防が続く中、橋に仕掛けた爆薬が爆発しない事態に見舞われる。何が原因なのか。
起爆装置に繋がる線を見つめるサカキ・サトルの眼に飛び込んだのは……。


「起爆装置を押せ」
結線さえできれば、橋は落とせる。
バンドゥーが走り出し、直後ミサイル弾が撃ち込まれる。
サカキ・サトルが顔をあげた時、起爆装置が目の前にあった。
バンドゥーは欄干で結んだコードを手に合図している。
サカキ・サトルは叫び、スイッチを押した。


「死にゆくもの、生けるもの」
準国民兵サイトウ・カツ・バンドゥーの犠牲によって橋は爆破された。
ただ、橋を爆破するという目的のためだけに何人もの人間が死んでいった事に憤りを感じるサカキ・サトルだった。
そして、ヤエガシ大尉はそのまま次の任務へと去っていった。その身体に溜まっているであろう疲労など、微塵も感じさせずに。


ハマーに乗った男」
準国民本部へ向かう途中のサカキ・サトルたちは2台の国連軍戦車に遭遇した。
ほとんど武器を持たないサカキたちが躊躇する中、突然現れた武装ハマーに乗った男達がそれを一蹴する。
男はサカキ・サトルに捨て台詞を残して風のように去っていった。


「アダチ大尉という男」
CIA長官狙撃作戦に向かう途中、アダチ大尉を隊長とする一行は予想もしない国連軍の大部隊に遭遇した。
任務遂行のために、アダチ大尉の命令の下、それぞれの持ち場に散っていく隊員達。
アダチ大尉に同行したサカキ・サトルは、そこで奇妙な質問を投げ掛けられる。
タケウチ・ナルミに関するものだった。


「戦車か、ヘリか」
ナルミの狙撃によって次々と戦車が破壊されていく。サカキ・サトルもアダチ大尉の指示で初めての戦闘に奮闘していた。
だが、予期していないところから戦車が現れる。動けるのは自分しかいないと判断し、飛び出すが、そこに攻撃ヘリの姿が。
戦車かヘリか、どちらを先に撃つべきか。


「ヘリを落とす」
一か八か、サカキ・サトルは現れたヘリに向かってランチャーを撃ち込んだ。
見事に命中し、墜落したヘリは戦車の行く手をも阻んだ。
アダチが感心したように軽く冗談を言い、それから全員に作戦決行を告げる。


「狙撃へのカウントダウン開始」
後方から迫る戦車をグレネードで倒したサカキ・サトル。攻撃ヘリもその様子に進路を変える。
アダチはナルミにそのヘリを落とせと命令しナルミは苦もなく撃ち落とす。
アダチはどこかおかしな様子を見せるが、気を取り直し、狙撃開始を告げ、全員が動き出した。


「天才の狙撃」
スドウをはじめとする仲間達のバックアップの下、サカキ・サトルとナルミは狙撃ポイントの廃校へと辿り着いた。
すみやかに狙撃準備を整える中、コールマンの思い出話も交える二人。
仇を取りたい。その思いが募る中、ついにCIA長官がその姿を現す。
ナルミが、引鉄にかけた指に力を込めた。


「帰らなければならない」
スドウの天才的な仕掛けの中、撤退を開始したが、仲間の数は半分に減っていた。
森の中へ歩を進めるが、突然現れた戦車に対応できなく、ナルミはサカキをかばって戦車に突入していった。
咄嗟のことで、何もわからないままただ、生き残るために銃を撃ち続ける。そこに、ミズノ少尉らが援軍として現れた。


遺言
サカキ・サトルは過酷なCIA長官狙撃作戦を生き延びたが、アダチ大尉はタケウチ・ナルミをかばい死んでいった。
アダチ大尉が何かを任せると言ったのをナルミに伝えると、それは孤児院の子供達のことだと教えられる。
戦いが、何もかもを奪っていく。その悔しさに、サカキ・サトルは泣いた。


「救出へ!」
南箱根へと向かうトロッコの中、サカキ・サトルはアダチ大尉率いるCIA狙撃部隊が連絡を絶ったと聞かされる。その隊にはナルミも参加している。
調査任務を拒否して救出作戦を願い出るサカキ・サトルに、隊員達も同意する。
ミズノ少尉は苦笑で応えた。
「救出にむかうぞ!」


先制攻撃
アダチ隊の救出に向かう途中、国連軍の大部隊を発見したミズノ少尉はここで潰していくと判断を下す。
サカキ・サトルは最初のランチャーでの攻撃を志願した。
小高い丘の上でグレネード・ランチャーを構えたサカキ・サトルは……。


燃え上がるキャンプ」
単独でのキャンプ攻撃を志願したサカキ・サトルは、見事タンクローリーにグレネードを撃ち込んだ。
激しく爆発し燃え上がる国連軍キャンプ。
目には直接見えなかったものの、確実に何人かが死んだことを意識する。
初めて自ら選んで人を殺した事実にサカキの心は重かった。


「人殺しじゃない」
グレネードがキャンプを燃え上がらせ、辺りは白煙に包まれる。
サカキ・サトルはナイフを取り出し敵兵と対峙し、敵兵の咽を切り裂く。
その感触に叫びそうになりながらも耐える。
これは人殺しではない、敵を倒しただけと自分に言い聞かせながら。


「廃校前での激戦」
CIA長官狙撃ポイントである廃校に辿り着いたミズノ隊は、繰り広げられていたアダチ隊と国連軍の大部隊の戦闘に飛び込んでいった。
もはやサカキ・サトルに迷いはなかった。
救出するためにここまで来た。その手段は銃を手にして敵を撃ち倒すこと。
それ以外になかったのだ。



七章



「なぜ、戦い続けるのか」
例えようのない怒りと悲しみを胸にサカキ・サトルはヤマグチ総司令官の元へ向かった。
なぜこの国は戦い続けるのか、なぜ死んでいかなければならないのか、納得がいかなかった。
意志を受け継ぎ、生きることは戦いだとヤマグチは説く。何もできないサカキ・サトルはイシイ少尉の胸で泣き続けた。


「抱えていたもの」
部屋でただカンバスを見つめる日々を過ごしていたサカキ・サトルはオダギリと名乗る兵士の訪問を受ける。
一風変わった雰囲気を持つこの兵士は新しい戦場『旭日昇天作戦』への命令書を携えてきた。
答えを出すために、サカキ・サトルは戦場へと出る決意を固める。


「絶対に生き残れ」
『旭日昇天作戦』へと向かうトロッコの中、サカキ・サトルはオダギリと話す。階級章も持たないこの兵士は、同じ日本の人間ではないかと考えた。
オダギリは、戦争なんか下らない、だがそこでしか見えないものもある、それを確認するために、会いたい女にもう一度会うために絶対に生き残れと説く。


「彼の名はウラサワ」
サカキ・サトルは『旭日昇天作戦』において新兵のウラサワと、外辺警備を担当する。
ウラサワは同じ教練に参加した仲間だったが実戦はこれが初めてだった。
戦える事の喜びを語るウラサワ。
そして、そこに現れた戦車3台と二人きりでの戦闘を余儀なくされる。


「レールガンを持つ」
戦車を破壊したサカキ・サトルとウラサワ。そこに再びヘリと戦車の音が響きはじめた。
国のために戦えることが嬉しいと単純に笑うウラサワ、その笑顔を守りたいと考えるサカキ。それぞれの思いを胸に、迫る敵をレールガンで迎え撃つ。
しかし、破壊したヘリが故意か偶然か、サカキ・サトルめがけて落ちてきた……。


「シコクへ」
戦わなければ、意味がない。答えは見つからない。そう決心したサカキ・サトルに新しい戦場が待っていた。
ムライ大佐が指揮する旧シコク、コウチ港への“む号新素材”移送作戦。
しかしそこにはとんでもない機密が隠されていた。
極秘に用意された飛行機で向かうという。


「草地での戦い」
シコクのモノベ湿地での戦いが始まった。
草地に移動したサカキ・サトルは泥まみれになりながら、様々なトラップを仕掛ける。
物量では国連軍との間に圧倒的な差があるがこの湿地の条件をうまく利用すれば勝機はあると考えていた。


「沼地での戦い」
シコクのモノベ湿地での戦いが始まった。
沼地に移動したサカキ・サトルはじっと身を潜め、迫ってくる国連軍を迎え撃っていた。
装甲車などには沼地は圧倒的に不利な条件。そこに勝機を見いだしていた。


「明日への布石
“む号新素材”移送作戦は全てが嘘だった。
オールド・トウキョウでの一斉蜂起『旭日昇天作戦』を成功させるための罠だったのだ。
では、このシコクでの作戦に参加した自分たちは捨て石なのかと訊くサカキ・サトルにムライ大佐は布石だと答えた。
可能性のための障害を取り除く、布石だと。


「生きて還る」
たとえ他人に捨て石と呼ばれようと、その石の上に未来へと続く道が残るのなら構わないとムライ大佐が言う。
サカキ・サトルは頷いた。未来への布石。
しかし、生き残らなければ意味がない。
サカキ・サトルとムライ大佐は互いに笑みを交わした。
絶対に死なない。生きて還ってみせると。


「敵陣の真っ只中へ」
コウチ港への“む号新素材”移送作戦。
サカキ・サトルを乗せた飛行機は、コウチ港の国連軍が待ち受けるその真っ只中に着陸した。しかし攻撃はない。
国連軍の狙いは“む号新素材”にある。むやみに攻撃してそれをなくしてしまっては意味がないからだ。
息を潜め、ムライ大佐の命令を待った。


「与えられた力」
コウチ港での戦闘は激しさを増していた。
突然上空に現れた巨大な輸送機が、信じられない数の戦車を降ろし始めた。
ムライ大佐がレールガンの使用を許可し豪州軍も攻撃を始めた。
集結するテクノロジー
サカキ・サトルはその中で戦い、次第に違和感を感じ始めていた。



八章



「オールド・トウキョウを」
サカキ・サトルは気がつくとオールド・トウキョウの街を彷徨っていた。自分がどうやって戦い、ここまで来たのか覚えていない。武器もほとんどなくウラサワの姿も見えない。
懐かしい東京の街を思い出し、思いにふけるサカキ・サトル。
そこに戦車のキャタピラの音が。


「全てはその手の中に」
廃工場でウラサワと再会したが、ウラサワは負傷して動けなかった。
国連軍の手がすぐそこに伸びてきていた。
自らを犠牲にしてサカキを逃がすと言うウラサワの言葉に反発しながらもひとつの結論を得る。
そして、武器を手に、自らは生き延びることを選択した。


「廃工場からの脱出」
ウラサワの犠牲を胸に、サカキ・サトルはレールガンを手にして脱出を試みた。
しかし周りはすでに国連軍によって固められていて、レールガンを持っていると言えども脱出は困難だった。
一か八かの戦闘の最中、ウラサワが廃工場を爆破させ、サカキ・サトルは爆風に飛ばされる。


「崩れ落ちるビルの中で」
オールド・トウキョウの市街地で、サカキ・サトルはジャック・ザ・メイジャーと遭遇、廃ビルの中での銃撃戦となる。
レールガンを手にするサカキは威力では勝っていたものの、ジャックの計略だったのか、レールガンで柱を吹き飛ばされたビルが崩れだし、サカキ・サトルは瓦礫に埋もれ意識を失った。


「廃ビルでの戦闘」
サカキ・サトルはなぜか戦車に乗っていないジャック・ザ・メイジャーと遭遇し、廃ビルの中での銃撃戦となる。
互いに少ない武器での銃撃戦。廃ビルの中をまるでチェスのように相手の動きを読みながらの戦いだった。
ようやくジャックを追いつめ、訪れたチャンスにサカキ・サトルは……。


「ジャックとの攻防戦」
廃ビルの中でジャックと戦い続けるサカキ・サトル。ジャックのいた位置に銃弾を撃ち込むが、柱を削っただけだった。
ジャックは飛び出し、階段を駆け上がっていった。
膠着状態を打破しようと、サカキ・サトルは相手の呼吸を感じ取り、同時に飛び出そうと考える。


「今ここで何をしているのか」
レールガンを手にしたコウチ港での戦い。
サカキ・サトルは襲ってくる無力感と戦っていた。
こんな武器で人の命を奪っていいのか。その思いを振りきり“む号新素材”を積んだトレーラーを走らせる。
自分がなすべきことをなす。
サカキ・サトルに迷いはなかった。


「闇の中で見つめるもの」
グレート・タスマニア号にトレーラーを運び入れ、任務を果たしたサカキ・サトルは歓喜の声に迎えられた。
戦うということは、闇の中に想うことと似ているかもしれない。闇の中に光が当たって、そこだけを見つめていく。
そんな思いにとらわれ、サカキ・サトルは何かを得ていた。


「いつか会えるその時まで」
サカキ・サトルは自分の日本へ帰ることを選んだ。泉美が待っている日本へ。
しかしそこで聞かされたのは、泉美が不治の病でもう何ヶ月ももたないとの事実だった。
短い二人きりの日々を南箱根の別荘で過ごす二人。それは幸福の記憶となり、いつか、再び巡り会える日までのサカキ・サトルの生きていく力となった。


生き方を選ぶという事」
サカキ・サトルはこの国で戦い続ける事を選んだ。いつか見いだすことができるかもしれない何かを求めて。
それは泉美との訣別ではなく、イシイとの日々でもなかった。
この国で生きることを選んだのだった。
そして、イシイ少尉はオーストラリアへ向かい、二人はそれぞれの道を歩みだした。


「オールド・トウキョウ解放
神社の境内でヤマグチ総司令官の勝利の演説が行われていた。サカキ・サトルはそれをひとり外れたところで聞いていた。
自分がここでしてきた事、背負ったもの、向こうに残してきたもの。様々な思いが去来する中、ヤマグチ総司令官がサカキ・サトルの前に現れ、これからどうするのかを訊いた。
サカキは……。


「泉美の待つ世界へ」
サカキ・サトルは、泉美の待つ日本へ帰ることを告げた。
しかし、懐かしい国へ戻ってもたらされたのは、訃報だった。泉美は不治の病に侵され、死んでいたのだ。
生きる意味を見失い、無力感に襲われる。
そこに聞き慣れた足音が聞こえてきたのは、夢だったのか……。


「次の戦場へ」
サカキ・サトルは、この国へ残り戦うことを決めた。自分はまだこの国で何も見つけていない。得られると思った答えはまだ出ない。
いつか自分の日本へ帰ろうと思う日が来るのかもしれないが、その時まで。
やがて、新兵達の訓練を、温かい眼で見守るサカキ・サトルの姿が、そこにあった。


「父、サカキ・マコト
サカキ・サトルは、ヤマグチ総司令官から行方不明だった父サカキ・マコトもまたこの世界へ来ていた事を知らされた。かつてヤエガシ大尉やタケウチ大佐、ヤマグチらと共に、この国のために戦ったと。
そして、父は人知れずこの国を救った素晴らしい男であり、また、才に溢れた絵描きであったと。


「いつかそこにたどりつく」
サカキ・サトルは、自分の日本へ戻り、絵を描きはじめた。
父の遺した絵を超えるものを描きたい。
いつか父に追いつき、越えてみたい。
その思いがサカキ・サトルを動かしていた。
あの国で得たものを全て身の内に抱え、サカキ・サトルはカンバスに思いの全てを込めて書き続けていた。


「いつかその日が来るまで」
サカキ・サトルはこの国で戦い、素晴らしい絵を遺した父を誇りに思い、それを超えてみたいと感じた。そして、父がここで感じた何かを、自分も得たいと考えた。
それまでは、ここで戦い続けると。
父が戦いの中で見つめ続けたものを、自分も見てみたい。父の遺した絵を超える絵を描きたいと願った。