悪魔と天使と快楽主義者

管理者:みやちん◆天使のザワメキ 悪魔のササヤキ

ケイト

ケイト・マイヤー



一章



「私の名はケイト・マイヤー」
15歳の天才ケイト・マイヤーは唯一の友人であるマシュー・バーグマンからのメールを受け取る。
その直後、彼が第五世代情報暗号プログラム“ガルム”を凍結し失踪したと知らされた。
メールに隠された暗号を解くとそこには、“君も僕も殺される”とのメッセージが表示された。


「港でのマシューとの再会」
ケイトはマシューに何かあったのに違いないと信じ港へ出かける。
そこに現れたマシューは、アメリカが二人を殺そうとしていると告げる。国家的な秘密である“ガルム”を作り出した二人は用済みの危険人物だと。
その話を裏付けるように突如二人に襲いかかる影があった……。


「CIAの男」
マシューに二人とも殺されると聞かされた直後、銃を持った背広姿の男が現れる。ケイトの手を引き走り出し、倉庫の暗がりに隠れるマシュー。男はCIAだとマシューは言う。
倉庫まで追ってきた男から逃げるために再び走り出す二人。
しかし男の靴音はすぐ背中に迫り、ケイトはどっちへ逃げようかと……。


「嘘をつく男」
ケイトは男の眼光の鋭さにその場から動けなくなってしまう。腕を掴まれ、危害を加えるつもりはないと聞かされる。
ケイトは何もわからないうちに逃げ回るのは嫌だと感じ、マシューはその表情を読み取り闇の中へ消える。
男は私立探偵だと言い、ケイトを自宅まで送り届けたが、ケイトはその嘘を見破っていた。


「私が、撃つ?!」
CIAの男に追われ、銃に狙われた二人。マシューはケイトをかばい肩に銃弾を受ける。
必死で逃げる二人。しかし男は確実に二人を追いつめていた。
マシューはケイトに銃を渡し、自分は撃てない。代わりに撃ってくれと頼む。
銃など撃ったことがないケイト。
しかし現れた男に向かってケイトは……。


「現れたマシュー・バーグマン」
マシューからのメールを、ケイトは疑った。
何かの罠かもしれない。自分の目で確かめるまでは動かない方がいい。
その夜、ケイトは当のマシューの訪問を受ける。二人は“ガルム”を作ったから、国家的な機密を知っているから殺される。
一緒に日本へ逃げようと訴えるマシュー。
そしてケイトは……。


「港へ」
マシューを信じたケイトは港に同行する。
マシューについての噂話はどこかおかしい。
誰かの用意した罠に違いないと判断してのことだ。
港に着いた二人はCIAの襲撃を受けた。
そしてケイトには仲間か?と訊いてきた。
質問の裏の意図に気づいたケイトは……。


「日本へ!」
マシューが消えて一ヶ月が過ぎ去る頃、ケイトの自室に背広姿の男が侵入してくる。男はケイトを自殺に見せかけて殺すためにやってきたCIAの男だった。
しかし、ケイトの部屋にはマシューに教えられた仕掛けがしてあった。
男を撃退したケイトは、単身マシューが待つ日本へと向かう。



二章



「マシューとカルロス
オサカの港に着いたマシューはケイトを一人残し、クン・マニアという男に会いに行く。
ケイトは店先でマシューを待ちながら養父であるブライアンに習ったハーモニカを吹く。
やがて戻ってきたマシューはカルロスという男と一緒だった。
派手な服を着て陽気なカルロスは何も心配いらないと笑う。


「マシューと二人」
ヌマヅ・スラムでカルロスの手伝いをしながら暮らしはじめたケイトとマシュー。
マシューは戦いの中に身を投じる覚悟をしている。何がマシューをそうさせるのかわからず不安になるケイト。
夜間巡回に出たマシューを追い、ケイトはその疑問を投げ掛ける。
異国の満天の星空の下、ケイトは……。


「自分の気持ちは」
見張りに出たマシューについていくケイト。
星空を見上げるマシューを見ていて、今まで感じたことのない感情が湧き上がり、ケイトは戸惑う。
自分はマシューを一人の男性として好きなのだろうか?問い掛けようとするケイトに、マシューは優しく微笑み、まだだと、ただそれだけを告げる。


「何もかも失う二人」
ケイトがマシューへの想いを再確認したのもつかの間、国連軍によるヌマヅ・スラム攻撃が始まる。
雨のように降り注ぐ砲弾の下、マシューが撃たれてその若い命を落とす。
泣き崩れるケイト。何もかも失い、かろうじて助かったカルロスと二人で呆然とする。
カルロスはケイトにUGへ行けという。


「意志を継ぐもの」
マシューが夜間巡回に出たその夜、突然国連軍によるヌマヅ・スラム攻撃が始まり、マシューは重傷を負う。助からないと聞き、思いの丈を吐きだすケイト。
マシューはケイトにUGへ行けと最期の言葉を遺す。
ケイトはカルロスに別れを告げ、UGへ行く決心をする。


「通信を傍受するということ」
ヌマヅ・スラムを守るために国連軍と戦っているカルロスたち。マシューとケイトはそれを手伝う事になる。
カルロスはケイトに旧式の通信機で通信の傍受と解析を行ってほしいと頼むが、しかしそれは自国民である国連軍を傷つける行為になる。
ためらいを感じるケイトだったが……。


「二人の行く末」
戦い、人を傷つける行為に加担することが重荷になるケイト。
マシューは何を考えているのか問いただす。彼はUGへの亡命を考えていた。
アメリカに追われた二人が自由に暮らせるところは、UG以外にありえない。
そのために、UGに亡命するための準備をここでするのだという。


「生きていくということ」
人を傷つけてまで生きていかなければならないのかと悩むケイト。
カルロスにその問いを投げ掛けると、カルロスは人間は生きていかなければならない。生き抜くためには、たとえどんな事でも受け入れていかなければならないと説く。


「新たな旅立ち」
戦いはありながらも、平穏と言える日々にマシューとケイトは馴染んでいた。
しかし突然マシューが国連軍の斥候に撃たれ死亡する。絶望と悲嘆の中で呆然とするケイト。やがて始まった国連軍の攻撃により、ヌマヅ・スラムは崩壊する。
何もかも失ったケイトに、カルロスはUGへ行くことを勧めるが……。


「見知らぬ土地へ」
オサカに着いたケイトはクン・マニアに迎えられる。マシューから頼まれていたというその老人は、マシューがヌマヅ・スラムのカルロスという男の所へ身を寄せ、戦闘で死んだと告げる。
呆然とするケイトに、クンはケイトの養父ブライアンがGI社の技術派遣で日本に来ているので、そこへ行けと勧める。


「イルマ」
イルマの飛行場でクンの部下に迎えられ、イルマ基地にほど近い山中の見張り小屋に連れられてきたケイト。ここで待っていれば必ずブライアンは来ると言う。
待つ間にイルマ基地を双眼鏡で覗き見るケイト。
そこには何か得体の知れない巨大なものがあった。


「ブライアンの手紙
ケイトはブライアンの置き手紙を見つける。そこには、国家反逆罪で手配されているケイトを一介の技術者にしか過ぎない自分はどうすることもできない。何とか生き延びて欲しいと綴ってあった。
ケイトには予感があった。昨夜父が帰り際にブルースハープを吹いてくれたときから。
そしてケイトは……。



三章



「夢の中へ」
ケイトは眠っていた。そして今まで見たことのない“夢”というものを見ていた。
幼かったあの頃の部屋にはいろんなものがあった。
遠く過ぎ去ってしまったものばかりだけど、それはケイトにとってあたたかく、大切なものばかりだった。
そういう“夢”をケイトは見ていた。


「亡命という意志の過程」
亡命を希望したケイトのところにUG兵士が迎えに来た。それはヤエガシ率いる部隊であり、ケイトを無事に地下司令部まで連れていくのが最重要任務だった。
共に進むうちに、ケイトは戦闘地帯を素人の亡命者を連れて歩くことの危険性を感じ、そして亡命するということはどういうことかを考える。


スパイじゃない!」
下司令部へ向かう途中の森の中、突然中年の男が現れ、地下司令部へ同行させてほしいと頼む。
明らかにおかしな様子のその男をヤエガシたちは無視し続ける。
しかし、その男はケイトを見て、スパイだと言いだす。
ケイトは思わず……。


「協力」
ケイトを迎えに来たヤエガシ隊のナカジマ曹長が戦闘中に行方不明になる。
しかしケイトを安全に送り届けるのが最優先と、ヤエガシはそのまま進み続ける。
ケイトは自分のために誰も犠牲にしたくないと協力を申し出る。
DMDGを返してくれれば、国連軍の通信を傍受して解読できると。


「二度と戻れないということ」
ヤエガシらはナカジマ救出に向かい、ケイトはオオカワラ少尉と待機する。しかしそこに国連軍の兵士が現れ、オオカワラはケイトをかばって銃弾に倒れ動かなくなる。
オオカワラの拳銃を持ち、近づいてくる国連軍兵士を見るケイト。
もうアメリカはケイトを守ってくれる存在ではないことを実感する。


「どっち?!」
ナカジマ救出の間、ケイトはオオカワラ少尉と待機していた。しかし突然オオカワラがケイトに向かってきた。驚き逃げるケイト。
だが、オオカワラが一発の銃弾に倒れる。
国連兵がいたのだ。
誰を狙ったのか、オオカワラかケイトか。
国連兵はケイトに気づき、そして……。


「ゆるやかに時は進む」
崩壊したヌマヅ・スラムでひっそりと暮らすケイトとカルロス。そこでケイトは初めて、“こころの奥底から溢れ出る思い”というものに涙する。
そんなケイトを元気づけるカルロス。
ある日、カルロスに手紙が届く。読み進めるうちにカルロスの身体に気が満ちてくるのをケイトは感じる。


無限の優しさ」
オールド・トウキョウへと向かう途中、カルロスの故郷ミシマ・スラムに立ち寄る二人。
だがそこはかつてケイトが手がけたミサイルによって目茶苦茶にされていた。
号泣するケイト。
そんなケイトをカルロス・ママは厳しく、しかし優しく叱咤する。辛くても頑張れ。いつでも私が待っているここに帰ってこいと。


「崩壊した村」
カルロスの故郷、ミシマ・スラムの惨状に唖然とする二人。生き残っていたテペオの話では国連軍が新型ミサイルで攻撃したという。
ミサイルを見て驚愕するケイト。
それはかつてケイトが開発したものだった。
カルロスの母も死んだことを聞かされ泣き崩れるケイト。
しかしカルロスは優しくなぐさめた。


「救いの手が、銃を握る」
カルロスの故郷ミシマ・スラムは壊滅状態にあった。
何も言わずにオールド・トウキョウへ向かうが、途中車のタイヤが溝にはまってしまう。
そこに通りかかって助けてくれたのは国連軍の兵士だった。
気づかれないことを願った二人だが、兵士はケイトに銃を向けた。



四章



「UGへ!」
伊豆DMZの特別区に着いたケイト。ヤエガシはケイトに優しく言葉をかけ去っていく。
いつかまた会えるかと思うケイト。
ロッコの中で何か違う雰囲気を持った少年サカキ・サトルに話しかける。
自分でも驚くぐらいに素直にいろんな事を話し、サカキはそれを静かに聞いてくれた。


「亡命者ケイト・マイヤー」
ケイトを連れてきたヤエガシは優しい言葉をかけ、去っていった。
そしてケイトは司令室へ連れていかれ、こそでヤマグチ総司令官からケイトの能力に期待して、亡命が認められたと聞かされる。
意外なほどにフランクで、そして簡単に事が進み、安堵するケイト。


「せんせい?!」
世話役として付いたイシイ少尉から同い年ぐらいの子供に講義をしないかと勧められるケイト。迷ったもののイシイが心からの好意でしてくれていることを感じ、承知する。
そして出会ったナツキはイシイ少尉の弟であり、実に優秀な生徒だった。
ケイトはやがてナツキに心魅かれていく自分に気づく。


「情報部としての仕事
情報部付の人間として日々を過ごすケイト。そしてイルマ基地攻撃に伴い、航空施設の情報をハッキングしてほしいと命令がある。
進めていくうちに新型輸送機がイルマ基地に配備されている事に気づき、開発者の名前に養父ブライアンを見つける。
報告すればブライアンの命が危ない。
ケイトは……。


「私はUGの人間」
自分は今UGの人間であることを自覚するケイトだが、父を見殺しにはできない。処分を覚悟してケイトは緊急通信回路を利用して、戦場にいるスナイパー、タケウチ少尉に連絡を取る。
父がイルマ基地にいることを伝え、画像データも送ったが、そこで通信が発覚し、ケイトは重大な違反者として捕らえられる。


「これから歩む道を」
イシイは、タケウチはブライアンを撃たなかったとケイトに告げる。安堵するが、次には父を殺してしまうかもしれない。
しかし、イシイは涙を浮かべケイトに言う。
今まで頑張ってきた事が無駄になってしまうと。私たちと一緒にやっていけないのかと。
それは心からの訴えだった。
ケイトは……。


「死を乗り越えて」
イルマ基地襲撃が成功し、ブライアンも生きてはいない事を知ったケイトは、独り精神の暗闇に閉じこもってしまう。
それを、心からの優しさで引き戻したのは、ナツキとイシイだった。自分が元気で生きている事を喜んでくれる人が、ここには少なくとも二人いる。
その事実にケイトは再び、歩きはじめる。


「それは、裏切り
ケイトはブライアンを助けたいがために、全ての情報報告を故意に遅らせる。結果的に作戦は成功したものの、UGの損害もあった。
イシイは、全てを知り、同情はしたものの、ケイトの行為は重大な違反だった。
どうなるのかわかっているのかと問うイシイにケイトは……。


悪魔の計画」
イシイはケイトに関する信じられない事実を発見する。
『優勢人種出生計画』
ケイトとマシューは天才を作り出すために人工授精され生まれた子供であり、数少ない成功例だったのだ。
この計画はまだ存在している。
怒りに燃えるケイト。


「それは二重スパイ」
CIAはUGにいるケイトをスパイに仕立て上げようとした。
それを知ったUG側は逆にそれを利用して、ケイトに二重スパイになるよう要請する。
思い悩むケイト。
アメリカに帰れるかもしれない、だが……。


「自らの選択」
ケイトは、イシイと協力して虚実ないまぜた情報を送り続けた。
やがてCIAは最重要機密である、トンネルの情報を流せと要求してくる。これが成功すればケイトをアメリカに迎えると。
ケイトはコンピュータルームに侵入し、フェイクではない本物のファイルを手に入れようとするが……。


「叶えられない望み」
ケイトが赤いファイルを手に入れようとしたその時、警報が鳴り響いた。
ケイトは全てを悟る。
UGもまた、ケイトを信用していなかった。
走り出すケイト。マシューのところへ行きたいと思うケイト。そして銃声が響き、イシイの悲鳴も聞いたように感じたケイトは、ゆっくりと意識を失った。


「力が、欲しい」
全てを理解したケイトはイシイに話す。何もかも見抜いたケイトの聡明さに驚くイシイ。
ケイトはスパイになってもいいがその代わりに、あの悪魔の実験をたたき潰したい。UGの力を貸してほしいと頼む。
そしてケイトは夢見ていた。いつか、自分の中の二つの国が自由に行き来できるようになることを。


「そこは“スワン・ソング”」
カルロスとともにオールド・トウキョウに着いたケイトは、スワン・ソングというバーに連れてこられる。ここのマスターが死に、遺言でカルロスがここを引き継ぐという。
手伝って欲しいというカルロスに、ケイトは喜んで頷く。
慣れない仕事に戸惑いながらも働くことを楽しむ。


「スラムの洗礼」
買い出しに出かけたカルロスとケイトは、数人の男にからまれる。
カルロスはケイトに荷物を持って逃げるようにいい、ケイトは駆け出すが、途中何者かに体当たりをされる。
それはケイトよりも幼い少女。
少女はケイトの荷物を狙っていたのだ。
それを察したケイトは……。


彼女の名はミシェル
道に迷ってしまったケイトは、ひとりの少女に声をかける。少女はミシェルと名乗り、ケイトが怪我をしているのを見て、手当てをしてくれ、しかも食料を奪われたのを知り、自分のものをわけてくれた。
ミシェルに教えられようやくスワン・ソングに辿り着き、安堵の涙を流した。


「父として」
ワカマツコンサートに出かけたケイトは父ブライアンの姿を認める。
ケイトの心情を見抜き、ブライアンと話をしたカルロスは、ブライアンからハープを受け取ってきた。
ケイトに生きていて欲しいがために突き放した彼もまた、泣いていたのだ。父の本当の心を知ったケイトは号泣する。


「壊れかけた無線機」
ワカマツコンサートを聞かせてやりたいが、国連軍が心配なカルロスは古い無線機を持ってきた。修理して直ればこの場でワカマツの曲を聴ける。
自分の腕に不安を感じるケイト。
無線機は直り、ワカマツコンサートを聴く事はできたが、その才能を発揮できる場所を持つワカマツに嫉妬を感じる。


「もう一度、最初から」
CIAに居場所を知られ、襲われたケイト。これ以上ここにいてはカルロスも危ない。
一人で出ていく決心をしたケイトに、カルロスは一緒にミシマ・スラムに行こうと言う。
そしてカルロス・ママと一緒に新しい家族になり、新しい暮らしをしようと言う。
ケイトは嬉しさに涙して、頷いた。


「新しい場所へ」
スワン・ソングがCIAに発見され、ひそかに出ていこうとするケイト。
しかしそれを察していたカルロスは、ケイトに銃を与えて言う。
スワン・ソングはケイトが帰ってくるまでその歌を唄い続けると。
ケイトは涙をこらえ、独り歩き出した。
新しい場所、UGへ向かって。


「生き抜く力」
CIAに襲われ、カルロスをも失ってしまったケイト。無為に日々を過ごすケイトだったが、カルロスのためにも行き続けなければならないと決意する。
そしてケイトはミシェルを通じて、クラブ・セレスの門をくぐった。
マリアは、ケイトに告げる。
ここは独りで生き抜くための場所だと。