悪魔と天使と快楽主義者

管理者:みやちん◆天使のザワメキ 悪魔のササヤキ

ノーマ

ノーマ・アイカ



一章



「シュゼンジ難民キャンプへ」
フリーのジャーナリスト、ノーマ・アイカワとその相棒のカメラマン、ティムは日本の“戦争”を取材にやってきた。
しかし、国連軍シュゼンジ難民キャンプの取材許可がおりない。
どうやら新聞社時代にノーマが記事で叩いたGI社が関係しているらしかった。


不思議な瞳を持った少年
シュゼンジ難民キャンプを取材中、ノーマは兵士が少女に暴行を加えようとする現場を目撃する。思わず走り寄ったがその前に一人の少年がそれを止めた。
不思議な雰囲気を持った少年だった。
間違いなく日本人だが学校の制服らしきブレザーを着ていた。この日本にあんな制服のある学校などないのに……。


「同じ記憶を持った老人」
難民キャンプの老人にインタビューを始めたノーマは、その老人がこことは違う日本から来た人間ではないかと思う。
ひたすら帰りたいと願うノーマはなんとかして帰るためのヒントを老人から聞きだそうとするが、無情にも時間が過ぎ去り、キャンプから退去させられた。


「キャンプの秘密へ」
難民キャンプの老人からデジタルデータ室が開いている時間を聞きだしたノーマは、ジャーナリストの血が騒ぎそこに潜入する。
そこで見出したデータの中から不正の匂いを嗅ぎ分けるが、決定的な証拠はなかった。
ただ、不正の中心はハルミ食料倉庫にあるらしいことだけはわかった。



二章



「イトウ・シティへ」
イトウ・シティにやってきたノーマとティムはそこで次の取材の構想を練る。
バーに出かけたノーマたちはそこで兵士たちから話を聞くことにした。生まれてからずっと戦争というものが普通にある若い兵士達。
そこには、戦争を日常とする人間の姿があった。
ノーマは複雑な思いで話を聞く。


「バーでの騒ぎ」
イトウ・シティのバーに立ち寄り、疲れを癒すノーマとティム。
軍の中年将校が二人で大げんかを始めた。
初めのうちこそストレスの解消だろうと傍観していたノーマだが、やがて激しい殴り合いとなり、ノーマは声を荒げてそれを止める。
そのうちの一人はあの“ジャック・ザ・メイジャー”だった。


「知ることの空しさ」
ノーマとティムは車でトコロザワ民間居住区を目指していた。途中には混血児達が暮らす貧しい集落が点在する。
取材を進めるノーマは怒りと悲しさと空しさに動けなくなってしまう。
なぜ、戦争を続けなくてはならないのか、ジャーナリズムは何もできないのか。
そして、村へ向けて戦車隊の砲撃が始まる。


「戦場で失うもの」
戦車隊は村を破壊し、兵士達は村の住民を蹂躙し始めた。怒りに燃えたティムは兵士たちに向かっていき、そして再び始まった攻撃の銃弾に倒れる。奴らの愚かさを写真にしてくれと言い残して。
ノーマはアメリカにいるウォルターの依頼でUGの常温超電導技術の取材を決めた。
ティムの死を無駄にしないために。


「何をすべきなのか」
トコロザワ民間居住区についたノーマとティムはその惨状に唖然とする。静かな住宅街だったはずがまるで戦場だった。
負傷者たちを放っておけず、ノーマは救助活動を始め、傷ついた混血の少女を放っておく国連赤十字を叱咤する。
だがそれは、ジャーナリストとしての行動とは言えなかった。


「何をしようというのか」
ノーマとティムはトコロザワ民間居住区に到着した途端、声を失った。
居住区を取り囲むフェンスの外、多数のスラムの住人達の死体が転がっていたのだ。
尋常な数でも様子でもない。まるで空爆でもされたかのような無残な有り様。
カメラを向けたノーマはあまりのひどさに力を失う。


「その街はヒビヤ・スラム」
車を手に入れたノーマとティムは、オールド・トウキョウで一番の悪名高き激戦区ヒビヤ・スラムを目指した。
そこで二人はギャング団のような連中の戦闘を見る。おそらくは食料の奪い合い。
この街ではそんなことが日常茶飯事になっている。憤りを感じるノーマはこのままここを取材しようとも思うが……。


「何のための戦いなのか」
スラムの惨状や不審な死体などを確認したノーマとティムはアカサカ・ジャンクションで休憩を取ろうとする。
しかし治安が良いはずの住宅地で突然銃撃の音がした。戦闘を目撃したノーマは、これがどうやらCIA長官狙撃に絡む報復ではないかと推察し、なぜそのように戦いが連鎖してしまうのか悩む。


「準国民兵たちの死から」
ハルミへ向かおうとしたノーマとティムはカチドキ橋が落とされていて立ち往生する。
そこには多くの国連兵や準国民兵の死体があった。
UGに憧れ死んでいく準国民兵。果たしてUGとは憧れるに足る存在なのか?UGのやっている事は正しいのか?単純に割り切れない問題が、ノーマの頭を巡る。


「ハルミ食料倉庫を調べろ」
カチドキ橋を渡り、ノーマとティムはハルミの国連軍基地に辿り着く。
ここの食料基地には必ず何かがある。それを調べることができたなら。
しかし予想通りそれは果たせず、ノーマとティムは夜を待って忍び込む決意を固める。


白鳥の歌が聞こえる場所」
ノーマはアメリカにいるウォルターからUGの常温超電導素材について取材をしてくれと頼まれる。
それを受けるノーマ。しかしどのようにすればいいのか。
ノーマはヒビヤ・スラムのスワン・ソングというバーに出向いた。


「五分前の世界から来た男」
スワン・ソングというバーに入り、これからどうするかを一人考えていたノーマは突然暴れだした酔っ払いの言葉に驚愕する。
彼はきっと自分と同じ世界から来た人間だと確信し、店を追い出された男を追う。
帰る方法を知っているのではないかと。



三章



「わたしの娘」
超電導素材について調べるため、一人、ナガノへ向かおうとしていたノーマはトコロザワ居住区近くで信じられないものを見る。
キャシーだ。確かに、自分の娘キャシーがそこにいる。
何も考えずに駆け寄るノーマ。しかしその腕に抱きしめる前にキャシーではないことに気づき、意識を失う。


「その名は“野兎”」
キャシーに似た少女を連れ、そして気を失ったノーマを救ってくれたのは、コードネームを“野兎”というUGの大尉だった。
武骨だが心根は優しい“野兎”にノーマは好意を抱く。
そして“野兎”は少女アリスを預かってくれないかとノーマに頼み、ノーマはUGを取材させてくれないかと頼む。


「アリスと二人」
取材許可をもらい、“野兎”からアリスを預かったノーマは、UGから連絡がくるまでミタカ・スラムで待つことになる。
アリスの境遇は“野兎”から聞いていた。
ノーマは親身になってアリスの傷ついた心を解きほぐそうとする。
が、アリスの心の傷は簡単には癒されないものだった。


「森の中の遭遇」
ナガノへ向かう途中、トコロザワ付近の森の中でノーマはUGの残した弾倉を発見する。
ノーマは一か八かこの森で野営をすることに決めた。
そして何日か経った夜。銃声にノーマは目覚め、UG兵の姿を見る。
ノーマは必死で、撃つなと叫び、UG兵との接触を試みる。


「見えない、兵士」
超電導素材取材のためノーマはナガノへ向かった。
途中の森の中でUGの残した空弾倉を発見しその森でUG兵を待ってみようとする。
何日か経った夜。突然起こった国連軍とUG兵の戦闘の真っ只中にノーマはいた。しかしUG兵の姿は見えない。国連兵はあっという間に倒され、ノーマは……。


「交渉」
ふいに現れたUG兵たちは一分の隙もなくノーマを取り囲んでいた。ようやく遭遇できた喜びと銃口に狙われる恐怖。様々な感情と戦いながら、ノーマは声をかけてきた兵士に自分の身分を告げ交渉を開始する。
しかし、UG兵は取りつく島もない態度を見せる。必死でくらいつくノーマ。
このチャンスを逃しては……。


「兵士のつぶやき」
取材を許可され、トンネル・ヴィーグルに乗ったノーマはこれからが本番だと気を引き締める。
その時、同乗していたタケウチ・ナルミの口から別の日本という意味合いのつぶやきが漏れるのを聞く。
ノーマは慌てて駆け寄り、それはどういう意味かと問いただす。


「あの少女」
ヒビヤ・スラムでUGと接触しようとするノーマ。戦闘時がチャンスだが、いつどこで起こるのか。
拾った国連軍の通信機はキーコードがなければ使えない。コンピュータで探ろうとするが無駄だった。しかしスワン・ソングの少女はいとも容易くそれをやってのける。
ノーマは彼女の正体に気づく。


ハッカーたちへ」
UGと戦闘時に接触しようとするが、いつどこで起こるかなどわからない。
拾った国連軍の通信機はキーコードがなければ使えない。
コンピュータで探ろうとするが無駄だった。
ノーマは思案の末、ハッカーに依頼してキーコードを入手してもらうことにした。そして何人かのハッカーから連絡をもらうが……。


「戦闘地帯へ」
国連軍の無線を傍受し続け、シミュレーションを重ねたノーマはひとつの結果を得た。
隊の配備でUGとの戦闘の有無がわかる。
その結果をもとに、ノーマはマツド・シティでの戦闘を予測する。
駆けつけたノーマは予想通り戦闘場面に遭遇した。しかし飛び込むのは自殺行為。
どうするか……。


アンダーグラウンドへ」
マツド・シティで国連軍とUGの戦闘に遭遇できたノーマは、なんとかUG兵と接触しようと試みる。
やがて、突然闇の中から現れたUG兵を前にして、ノーマは目的だけ告げると極度の緊張と恐怖で倒れてしまう。
目が覚めたとき、取材の許可を告げられ、ノーマはトロッコに兵士たちと同乗する。


「その技術の基礎」
UGとの接触が暗礁に乗り上げたノーマは超電導技術の基礎を調べようとする。
コンピュータネットを駆使し、アメリカ合衆国超電導素材研究の第一人者、ヒギンズ博士とのコンタクトに成功したノーマはPC通信での取材を試みる。



四章



「ヤマグチ総司令官との出会い
幸運にも恵まれ、ノーマはUGの司令部へと案内された。
そこでノーマを待っていたのは総司令官ヤマグチ。文字通りUGの代表である。
緊張を隠せないノーマだが、ヤマグチは笑顔でノーマを迎えた。


超電導素材というもの」
ノーマは、ヤマグチ総司令官自らの案内で、UGの超電導素材研究区画を案内される。
取材のポイントを絞ってくれというヤマグチの要求にノーマは応え、自分が見たいものをその目で見て、知った。
取材が終わったノーマはマツザワ中尉という女性将校の家に泊まることになり、レポートをまとめ始める……。


「ノーマの眼」
ノーマはウォルター宛にレポートを書いた。
自分の眼で見たもの、ヤマグチから聞いたこと、そしてジャーナリストとしての勘……。
結論としてノーマは、超電導素材は本物であり、そしていつかUGの時代がやってくると結んだ。


「ジャーナリストとしての勘」
ウォルター宛にノーマはレポートをまとめだした。
自分の目で見た超電導素材、自分の耳で聞いたヤマグチの言葉、それら全てを総合して、ノーマは超電導素材はないと判断した。
全てはあの記者会見を行うための虚偽だと。しかし、それが何を目的としているのか、ノーマには掴めなかった。


「二つの小さな命
取材を終えた翌日、ノーマはマツザワ中尉の家でアリスとともに和やかな朝食をすませ、地上へと戻った。
ワカマツコンサートが行われる。ノーマはアリスにそれをライブで聴かせたかったのだ。
真剣に聴き入るアリス。ノーマはこの少女を愛おしく思い、しかしその向こうに最愛の娘キャシーを見てしまう。


「その小さき手をとる」
元の世界へ帰りたい。その気持ちは変わらない。しかし今、目の前にいるこの子を見捨てるわけにはいかない。
ふいにアリスは、涙を流し、ノーマをママと呼んだ。
今まで一言も発しなかったアリスが。
ノーマはアリスを抱きしめる。自分がこの子を守ってやるのだと決意しながら。


「その音を作りだした者」
取材を終えた翌日、ノーマはマツザワ中尉の家で和やかな雰囲気のまま朝食をすませる。
ワカマツのコンサートを司令官室の大スクリーンで見ていかないかと誘われ、好意に甘えることにした。
ヤマグチも加え、曲に聴き入るノーマ。
ワカマツの局は、ノーマの奥深いところまでを見せてくれるようだった。


「南箱根へ!」
ワカマツコンサートも終わり、地上へ帰ろうとしたノーマだが、兵士が漏らした南箱根へ行く、という言葉に思わず反応してしまう。
事情を聞いたヤマグチは南箱根への同行を許可するという。
何の裏もない欲得を抜きにしたその言葉に、ノーマは涙し、そしてUGに住む人々に好意を抱く。


「地上へ!」
ワカマツコンサートも終わり、マツザワ中尉に見送られ地上の世界へ帰ったノーマ。
一つの事を終えた充足感と共に、この世界で生きていかなければならない現実を見据える力が湧いてくるのを感じていた。
そしてノーマは再びヒビヤ・スラムを歩く。


「全ては推測にすぎない」
ありとあらゆる努力をし尽くしたが、超電導素材そのものに触れることはできなかった。
外堀から固めただけの推論をレポートにしてウォルターへと送る。結論として、超電導素材はない、と。
しかしただの推論にすぎない。
徒労感と空しさを感じるノーマだった。


「心に浮かぶもの」
ヒビヤ・スラムの惨状を見つめ、ノーマは思う。こうやって生きていくのはいったい何のためなのか。ノーマは改めて思う。
キャシー。
何よりも大切なのは、愛娘のキャシーだ。
ワカマツの曲を聴きながら、ノーマは心が澄んでくるのを感じていた。


「戦場のピクニック」
ヒビヤ・スラムを歩くノーマは広場のようなところで男に声をかけられる。
それぞれ“犬”“冬”“指”“穴”と通り名で呼び合う男達の瞳に、ノーマは純粋なものを見た。悪い人たちではない。
ノーマは彼らとアジトの前の庭のような場所で、食事をし酒を飲み、語り合い、星を見上げて眠った。


「帰るための場所は」
南箱根へ行こうと、ノーマは決意する。自分がこの世界に現れた場所、南箱根。あそこには何かがあるに違いない。
森の中へ足を踏み入れたノーマは、全身に嫌な気配を感じていた。
やはり明らかにこの森は何かが違う。どこかおかしい。そしてノーマは何かの気配を感じて伏せた。何かがいる?


「森の中の出会い」
南箱根の森を進むノーマの前に、UG兵たちが現れた。銃は向けられたが、決して威圧的ではなかった。
ノーマは自分の身分と名を明かす。
幸運だった。この幸運がもう少し早かったらウォルターの役に立てたと思いつつ、ノーマはなぜ自分はここにいるかを説明する。


「新たな道へ」
ワカマツコンサートを聴きながら、ノーマの心の内には新たなものが湧きあがってきていた。この世界で生きていく。この世界で人のために何かをしたい。
この手で人を助けたい。
そしてノーマは、移動野戦病院で、看護婦助手として働いていた。自分で選んだ新しい道だった。


「そこへ向かって走る」
UGの兵士と共に南箱根の森を進むノーマ。気持ちがはやっていた。UG兵が計測器を片手に指した場所が、戻れる場所だと思うと堪えきれずにノーマは駆け出した。
止まれと叫ぶUG兵。ノーマは銃声を聞き、目の前が暗くなる。
しかし目覚めたところは病院だった。
何十年も前に戦争が終わった日本だった。


「あの日々と、人々へ」
南箱根の森を進むノーマの前に、突然国連軍オダワラ基地の戦車隊が現れる。
戦闘になりUG兵が消えた後に現れたのはジャック・ザ・メイジャーだった。勘違いしてノーマを助けようとしてくれたのだ。
その後ノーマは一人、森の中を進む。
そして……ノーマはキャシーと共にいた。
幸せを、噛みしめていた。